「名将への挑戦状〜世界のサッカー監督論〜」ヘスス・スアレス+小宮良之

久々のブログ更新は、出張時に買って一気に読んだ本の感想。


名将への挑戦状 ?世界のサッカー監督論?

名将への挑戦状 ?世界のサッカー監督論?


ワールドサッカーダイジェストでスペインのコラムを担当しているヘスス・スアレス氏と彼をダイジェストと引き合わせた小宮氏の共著。いくつかの部分で小宮氏が執筆している。当然、スペイン人もしくはリーガ・エスパニョーラで指揮を取った監督が多く取り上げられている。

スアレス氏は、ジョゼップ・グアルディオラと親交の深い方で、バルサを筆頭とするいわゆる「攻撃的サッカー」の信奉者、と言うよりは「勝利至上主義サッカー」を毛嫌いしているように見える。なにしろ、カペッロ監督の項では、とても批評とは表現できない罵詈雑言のオンパレード。何も関係ないのにべンゲルの話の中で、突如カペッロを引き合いに出してクソミソ。カペッロ本人に訴えられても文句を言えないくらいのレベルなのが面白い。

ただ、最近世間に多く見受けられる単純な攻撃的サッカーの信奉者とは訳が違って、一つ一つの考察に深みがあって、それぞれの監督のチームの試合を改めて見直してみたくなる内容だと思う。個人的に感銘を受けたのは、ラファエル・ベニテス監督についての記述で、僕がベニテス監督に対して感じていた「すごい良い監督なんだけど、何かなあ・・」という漠然とした疑念が、スアレス氏の言葉によって氷解した。

あの伝説的な04−05シーズンのCL決勝、リバプール VS ACミラン戦でのベニテスの采配について、彼が前半終了後のハーフタイムで二度も戦術ボードの駒を間違えた事を取り上げて、彼のエモーションが選手を突き動かしたのではないか、と。筆者は、選手を駒としてしか扱わず、自らの想定内でしか戦えないその采配に不満は感じるが、自らのエモーションを正しく選手に伝える事が出来たなら、その戦術の緻密さはジョゼやペップを超えるベニテスは世紀の名将になれるはずなのに残念だ、と本書で述べている。

筆者の語り口には、フットボールに対する高度な見識と深い愛情を感じて、最後まで興味深く、なおかつ共感しながら読む事ができた。これだけフットボールに対して造詣が深ければ、もう少し高圧的な調子になってしまいがちなのだが、目線は我々のような市井のサカオタと同じように感じられた。そのあたりも、スアレス氏の素晴らしいところではないだろうか。

あと、同じ時に買ったNumberでのビエルサ監督のビルバオでの苦悩をについて書かれたコラムとスアレス氏の批評を読むと、ビエルサが日本代表監督になっていたら大変だったろうなと思った。アジアカップとか、結果を度外視して攻撃的に行きすぎて、速攻でクビ切られてただろうな、ビエルサは。

これも面白かった。スアレス氏の本と同時に読むと、なかなか興味深いと思います。