プロフェッショナル 仕事の流儀 宮崎駿SP

ずいぶんと遅れてしまったけど感想。
多くのファンにとって最大の見所は、彼が自分の息子のデビュー作「ゲド戦記」の試写を見るシーンではなかったろうか。上映開始後、たった1時間で一旦外に出て、不機嫌そうに「気持ちで映画を作っちゃいけない」と一言。
このシーンあたりから、密着している間ずっと彼は不機嫌なままだ。新作映画の骨格が出来るにつれてどんどん鬼気迫る雰囲気になっていく様は、不機嫌を通り越して「鬼」という表現が適切ではないかと思うくらいだ。盟友鈴木プロデューサーがその事についてインタビューを受けている際の、テレビに映っている事をまったく意識していない貧乏ゆすりが、現場の緊張感の高さをより明確に伝えていた。
おそらく多くの優れた表現者にとって、創作活動というのはこういうものなのでしょう。本来はこんなもの見せちゃいけないものだと思う。まして、彼が作っているのは基本的に子供向けのものなのだから。ただ、それが子供向けであろうと、自らの人生の大半を注ぎ込まなければいけない。一作ごとに、身体も精神もすり減らして作らなければ良い映画など出来ない。彼が色指定の女性へ「ゲド戦記」試写後に語った言葉*1や、途中で挟まれたMC2人によるインタビューの中に、はっきりとその心構えが表れていた。もし「監督」という仕事がそのようなものなら、彼が自らの息子に自分と同じ仕事をさせることを最後まで反対していた理由がよく分かる。ただ単に技術的に拙いという問題ではなく、吾郎氏自身の生き方を問うているのだろう。
MC二人のインタビューは決して蛇足ではなかったと思う。製作側が考えたであろういくつかの愚問に答える宮崎駿氏の語る内容は、彼の映画作りに関わる大切なものの片鱗を、わずかではあるけど見せてくれた。
プロフェッショナル 仕事の流儀 スタッフノート
「最後の宣教師」となったNHKのスタッフにはご苦労様でしたと言いたい。本来見せちゃいけないものだったと思うけど、やっぱり見れて良かった。このような貴重なモノを身を削って提供していただいて感謝。

*1:「初めてにしてはよくやったっていうのは、演出にとっては侮辱だからね。この1本で世の中を変えようと思ってやんなきゃいけないんだから・・変わりゃしないんだけど。変わらないけど、そう思ってやるのがね、映画を作るってことだから」