MW/手塚治虫

MW(ムウ) (1) (小学館文庫)

MW(ムウ) (1) (小学館文庫)

MW(ムウ) (2) (小学館文庫)

MW(ムウ) (2) (小学館文庫)

正直、映画の方はまったく見る気にはならないのですが、漫画の方は未見だったので読んでみました。2009年の今になってみればそれほどショッキングな内容ではないのだけど、'76〜'78年に書かれたものであることを考えれば、その先見性はとんでもないものだと思います。
手塚治虫氏の関して印象的だったのは、彼の死の数か月前、ラジオでのインタビューにおいてインタビュアーが言った「手塚流のヒューマニズムが・・」という発言に対して「ヒューマニズムなんて言葉を使うのはやめてくれ。戦争を経験した一人の人間としてヒューマニズムなどというものを信じる気にはなれない。」と激怒。「今後、私の作品を語るにあたってヒューマニズムという言葉を一切使わないでくれ。」とまで言った事でした。
手塚氏がこの作品で描こうとしたのは、この世の中には有無を言わさぬ絶対的な悪があるという事、そしてそれに対する善が、あまりにも危うく儚いものであるという事だったんだろうなと。悪の象徴である結城美智雄は、最初から最後までまったく揺るがないのに対し、善の象徴である賀来巌は、神父という神聖な立場にありながら、むしろそれ故に悪からの誘惑に屈し続ける。彼はただ、自らが戦争という修羅場で見たそのままを作品に描いただけなのではないのでしょうか。
映画に関しては、製作者側が同性愛的な面を描く気が満々だったのは、賀来を原作通りのマッチョなおっさんではなく山田孝之にキャスティングしたあたりを見れば分かるのだけど、個人的には、そのあたりの描写があいまいでも美智雄の徹底的な邪悪ぶりを観客が引くほどに強烈に表現できれば問題ないと思うのですが、そのあたりは映画を見た人が判断すれば良いんじゃないかと思います。