日本代表新監督にザッケローニ氏

まずは、最初の大仕事を終えた原さんを初めとする日本サッカー協会の皆さんに、とりあえずご苦労様でしたと言いたいです。ほっとしただろうなあ、原さん。

今回、様々な謂われない批判が渦巻く中、辛抱強く交渉した結果、少なくとも実績だけを見れば世界レベルの監督を連れてくることができた。正直言えば、これまで伝え聞こえてきたW杯後の日本サッカーの目指す方向性とは若干違うタイプの監督であるし、さらに言えば、自国では「過去の名将」よばわりされている人である事は事実だ。それでも、これまでの内向きな人事で様々な人々を蔑ろにし傷つけてきた状況に較べれば、何千倍何万倍もまっとうで正当なやり方で、史上最高の実績を持った監督がこんな極東の非力な国に来てくれた事を素直に喜びたい。
ここに至るまでに、本当に腹立たしくなるような低レベルな批判を聞かされた。「原博美がやってるから支持してるんであって、これが田嶋や大仁だったら批判してただろ?」という意見も聞かれたが、多くの識者が支持していたのは、原博美個人ではなく、そのまっとうなやり方だった。あるいは、「現役のJリーグの監督を引き抜く事はしない」と言い切っているのに、オリベイラ監督の就任を平気で口にする人間もいた。オリベイラ監督が悪い訳ではない。ただ、もし彼を選ぶなら、リーグ終了の12月まで暫定監督でやらなければいけないし、それはすなわちアジアカップを棄てるという事でもある。それを許容するのかと。そして、そういう輩ほど「兼任」という言葉を軽々しく口に出す。クライフや関塚さんが、そしてオシムさんが、なぜあのような病気になってしまったのかを理解しようともしない。僕は、そこまでオリベイラ氏に無意味な重荷を課す気にはならない。

まあ、とにかくザッケローニ氏がやって来るのだ。日本にとってこれまでの中では最も難しいチャレンジになるだろう。何よりも、彼にとっては日本を知らない以上に「アジア」の難しさを知らないという問題がある。日本人である岡田氏でさえ、アジアでの戦いと世界との戦いの間で苦悩していたのだ。世界的な名将といえど相当苦しむはずだ。そんな中で、サッカー協会がどれだけ彼をサポートできるかがポイントだろう。監督に丸投げしてしまえば、必ず失敗する。まずは「アジアの洗礼」としては、1月のアジアカップは適当な大会であると思う。
どれだけ優秀な通訳を連れてくることができるかも大きな問題だろう。トルシエにとってのダバディ氏、オシムにとっての千田氏のような、正確な通訳だけでなく、言葉の真意や熱さなどの細かいニュアンスも伝えられて、監督自身とも強い信頼関係を築く事の出来る人を連れて来れるのだろうか。

ここ最近は、敗戦処理投手のような役割を強いられ、すっかりイタリア本国では「過去の名将」扱いされた男が、その地に落ちた評価をひっくり返して世界にもう一度自分の存在をアピールするための新たな挑戦なのか、それとも極東の地で2億円をもらってバカンスを過ごすつもりなのかは、あと少しすれば判るだろう。その未来の道筋が未知なものであればあるほど、冒険は楽しいものだ。ザッケローニ氏には、その豊富な経験を日本サッカーに伝えていただきたい。期待します。