MASTER TAPE〜荒井由美「ひこうき雲」の秘密を探る

先週NHKのBSでやっていた、ユーミンの1stアルバム「ひこうき雲」のアーカイブ番組。洋楽のクラシックアルバムズのシリーズのように、かつて制作に関わった人達の証言や本人達が実際にマスターテープを聴きながらかつての制作状況を語っていて、とても興味深い内容だった。
印象的だったのは、当時のディレクターやエンジニア、キャラメルママのメンバー*1と話したり、一緒にマスターを聴いているユーミンが、いつものいけ好かないおばさん(失礼!)というイメージとは違って、少女のような表情だった事。途中で、実際にセッション風に「ひこうき雲」を演奏し歌う場面があるのだが、高音部の声が出ないのはご愛敬。でも各メンバーきちんと間違えずにその場ですぐに演奏したのはすごい。
演奏は数テイクで録音し終わったのだが、歌の録音で1年間のレコーディング期間のほとんどを費やしたとか、松任谷正隆氏の「何でノンビブラートで歌わせたの?」という質問に、ディレクターの有賀氏は「ユーミン声のビブラートは『ちりめんビブラート』*2だから許せなかった。」というジャズ畑出身の彼の好みだけの問題だったと答えていたりとか、「ひこうき雲」は最初は雪村いづみに提供されたものだったとか、アメリカンロック志向だったキャラメルママのメンバーとブリティッシュロック志向だったユーミンとの間には当初違和感があったとか、ユーミンがピアノを全編弾いてるのはこのアルバムだけで「ミスリム」では弾いてたのに差し替えられたとか、個人的に初めて聞くような面白い話が目白押しでした。
彼女が一番好きな曲だと公言している「雨の街を」が最後に流れるのだけど、その曲に関するエピソードがとても良い話で、彼女が一番この曲を愛してるのは、そういうパーソナルな思い入れがあるからなのだな感動したので、その部分だけ書き起こしてみます。

最後の歌が、忘れもしない「雨の街を」っていう曲だったんですけど、これが・・もうすっごい恥ずかしながら・・・話すエピソードなんですが、いい加減もういやになっちゃってたんですね、その歌歌うのが。で、今日こそOK出したいって感じでスタジオに行ったら、ピアノの上に牛乳瓶にダリアの花が差してあって、そこにスポットが当たってたんですよ。(中略)で、それが何と松任谷(正隆)さんが置いた花だったんですね。その数日前に井の頭公園を散歩しながら、好きな花について話していて、私が「ダリアが好きだ」って言ったのを、牛乳瓶に(笑)差して置いていたっていう・・・もうそれで歌えたかのような事に(私の)心の中ではなってます。

ぜひ他のアーティストの名盤でもやって欲しいと思える内容でした。

ひこうき雲

ひこうき雲

*1:悲しい事ではあるが、当然、鈴木茂氏の姿はなかった。当時のメンバーとして写真等では紹介されていたが。

*2:ビブラートが細かいということらしい。