ひさしぶりに「ムーンライト・シャドウ」を読んでみた

例のばなな騒動の後、久しく彼女の作品を読んでない事に気がついて、本棚の奥から引っ張り出してきた。
それにしても、エッセイしか読んでないのに、彼女の作風の肝である2つの要素「小娘のセンチメンタリズム」「スピリチュアル志向」を導き出せるというのは、さすがid:y_arim氏はすごいなあと感心してしまった。もちろん、こちらでも書かれている通り、バブルの時代を象徴するような「軽さ」を持ったその作品群の中から、一冊読めば十分その本質を理解できてしまう程度のものなのかも知れない。ただ、20年以上前、バブルの時代を学生として過ごした僕にとっては、そんな「マックのハンバーガー」や「ラノベ」でも、その他の高尚な純文学と同じように大切な想い出の一冊だったりするのだ。

僕が一番好きな彼女の作品は、彼女の処女作である「ムーンライトシャドウ」。とても稚拙で、ありがちな設定の作品ではあるけれど、その「小娘のセンチメンタリズム」と「スピリチュアル志向」が絶妙なバランスで表現されていて、若い僕は本当に感動したのを覚えている。タイトルにもなっているマイク・オールドフィールドの曲をBGMにして読むと、胸がきゅっとつぶされるような切ない感覚になって泣けてきたものだ。



20年以上経って、あの頃と同じように泣けるかなと思って読み返してみたけど、そんな若い頃が二度と戻ってこないという事を再確認できて、逆にその事実に泣きそうになったりした。
確かに、彼女の作品の「軽さ」は当時も批判の対象ではあったし、21世紀の今になってもその「軽さ」は何も変わらないけど、個人的にはその「軽さ」の中に普遍的なテーマを埋め込んで、数多くの読者に読ませる事こそ何よりも物書きにとって難しいことで、彼女はあの時代にそれを達成できていたと思うのですが。もし読んだ事のない方がいらっしゃればぜひ一読を。すぐ読めちゃうし。

ちなみに、今回の居酒屋騒動に関しては、お客様が喜んでくれるならとこっそりワイングラスを出してくれたバイトの女の子のやさしさに、個人的に一番シンパシーを感じました。意外とそういうちっちゃなやさしさがサービス業の心構えの基本だと思うのですが、忙しい現場ではなかなかそういう訳にはいかないのですよねえ。

キッチン (角川文庫)

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